基本情報
- 寿命
- 数週間〜1年未満。飼育下では数週間で餓死が多い
- 体重
- 体長1〜10cm程度。ミカドウミウシなど30cm超も
- 性格
- ごく緩慢。種ごとに決まった餌しか食べない
- 飼育難易度
- 極高(給餌がほぼ不可能・飼育は推奨されない)
- 法規制
- 動物愛護法の対象外。採集は漁業調整規則・自然公園法を確認
- 最重要ポイント
- 餌のカイメン等を確保できなければ採らない・戻す
生態と特徴
- 体の特徴
- 殻を持たない軟体動物。頭の触角(リノフォア)で匂いを感じ、背中の二次鰓や突起で呼吸する
- 原産地・分布
- 世界中の海。日本では磯・漁港・サンゴ礁に多種が分布
- 野生での生息環境
- 潮間帯〜浅海の岩礁・藻場。餌となるカイメンやヒドロ虫の上
- 活動時間・睡眠
- 昼夜問わず餌の上をゆっくり這う。多くは春〜初夏に浅場に多い
- 社会性・人との関係
- 単独で生活。雌雄同体で出会った相手と交尾。人を認識しない
特徴的な行動・習性
- 餌の生物(カイメン・ヒドロ虫等)から毒や刺胞を取り込み体に蓄える
- リボン状の卵塊を岩に産み、産卵後ほどなく寿命を終える個体が多い
- 危険を感じると触角と鰓を引っ込め、壁面から離れて漂うことがある
かかりやすい病気と予兆の見方・予防
餓死・衰弱
予兆日ごとに体が縮む、色があせる、触角を出さず底で丸まる、餌の減りがない
予防採集前に餌生物を同定し餌ごと採る。餌が確保できない種は採らない・早期に海へ戻す
アンモニア中毒
予兆急に壁面から落ちる、粘液を大量に出す、体表が白くふやける、動かない
予防毎日アンモニア・亜硝酸を測り検出ゼロを維持。少量頻回換水。餌の食べ残しや死骸を即除去
浸透圧ショック
予兆換水や足し水の直後に体がふくらむ・縮む、鰓がしぼむ、翌日溶ける
予防比重1.023〜1.025を毎日測る。蒸発分は真水で少量ずつ足す。換水は同温同比重で
高水温障害
予兆夏に動かず鰓や突起が縮む、体表がはがれる、数日で溶ける
予防採集地の水温(温帯種は15〜22℃目安)を維持。夏は冷却ファンかクーラー必須
体表の崩壊(溶け)
予兆体の一部が白濁し溶け出す、突起が次々抜ける、悪臭、粘液の糸
予防傷と水質悪化が引き金。網やピンセットで触らない。溶け始めた個体は隔離し本水槽を守る
寄生カイアシ類
予兆背中に白い糸状・袋状のもの(寄生虫の卵嚢)が付く、体が痩せる
予防採集時に体表をよく観察し寄生のある個体は採らない。無理に取ると体を裂くため除去しない
病気の予兆チェックリスト
毎日1回チェック。1つでも当てはまれば早めに動物病院へ相談。
病気の応急処置
体が縮み動かない
餓死の前兆。餌生物を同定して入手できる見込みがなければ、採集地の同じ場所へ速やかに戻す決断をする
急に落ちて漂う
水質急変の疑い。アンモニア・亜硝酸・比重・水温を測り、同温同比重の新しい海水で1/3換水し流れを弱める
体表が溶け始めた
採集地の海水を入れた別容器にそっと移して隔離。本水槽は換水。回復は難しく、他個体への影響を防ぐことが主目的
比重が狂っていた
一度に直さない。1日0.001程度ずつ数日かけて1.023〜1.025へ戻す。急激な修正は浸透圧ショックで致死
起こりやすい怪我と予防・応急処置
ポンプへの吸い込み
予防給水口・ポンプ吸込口にスポンジを被せる。水流は弱く。水面近くの吸込口は特に危険
応急処置電源を切り、ポンプを分解して水中で静かに外す。体を引っ張らない。裂けた個体は別容器で静置
網・器具による裂傷
予防網やピンセットでつかまない。移動は容器ごと水中ですくうか、カードに這わせる
応急処置それ以上触らない。清浄な海水の別容器に静置し、流れをなくす。溶け出したら隔離
同居生物の食害
予防カニ・ヤドカリ・ベラなどと同居させない。単独か同種のみの小容器で管理
応急処置加害生物を即別容器へ。傷ついた個体は静置し、鰓や突起の脱落部位を観察
乾燥・空気中露出
予防水面上に出たら容器の水位を調整。輸送中は海水で満たし空気に触れさせない
応急処置海水に戻す。干からびて縮んだ個体は粘液で体を守っている場合があり、触らず回復を待つ
動物由来感染症(人にうつる病気)
ビブリオ創傷感染
感染経路海水や岩での手の傷から細菌が侵入
予防傷のある手で海水に触れない。手袋を使い作業後は石けんで洗う。肝疾患の人は特に注意
水槽肉芽腫
感染経路非結核性抗酸菌が手の傷から侵入
予防水槽作業は手袋着用。治りにくい赤い腫れが手にできたら皮膚科で水槽作業を伝える
刺胞による皮膚炎
感染経路ミノウミウシ類が蓄えた刺胞に素手で触れる
予防ミノウミウシ類は素手で触らない。刺されたら海水で洗い、こすらず冷やす。腫れが広がれば受診
防御物質の中毒
感染経路毒を持つ個体に触れた手で目・口に触れる
予防触った後は目や口に触れず手を洗う。幼児やペットが口にしないよう管理。誤食は医療機関へ
飼養条件:餌・水・おもちゃ・巣・床材
餌
- 種ごとに餌が決まる。アオウミウシは特定のカイメン、ミノウミウシ類はヒドロ虫等
- 餌生物は採集地で同時に採る。餌の上にいる個体を餌ごと持ち帰るのが唯一の方法
- 餌を確保できない種は飼育不可。餓死させる前に採集地へ戻す
水
- 採集地の天然海水か人工海水。比重1.023〜1.025、温度は採集地と同じ
- アンモニア・亜硝酸はゼロ必須。週1〜2回1/4を同温同比重で換水
与えてはいけないもの
- 人工飼料・冷凍餌・野菜など餌生物以外(ほぼ一切食べない)
- 水道水や真水の大量添加(カルキと比重急変で致死)
- 銅を含む魚病薬・添加剤(無脊椎動物には猛毒)
おもちゃ・遊び
- 玩具は不要。餌生物そのものが生活場所になる
- ライブロックや岩の起伏が歩行と隠れ場所になる
- 強い照明は不要。餌のカイメン等が傷まない弱光で十分
巣・寝床・隠れ家
- 餌生物の上や岩陰がそのまま休息場所
- 水流の当たらない静かな岩の隙間を用意する
床材・トイレ
- 底砂は無しか薄いサンゴ砂。厚敷きは腐敗源になる
- 採集地の岩やカイメン付き石を配置
- 糞や粘液は毎日スポイトで除去する
飼養環境:ケージ・運動・温湿度
ケージ・ハウスの素材
ガラスか透明プラの小型水槽。隙間ない蓋、吸込口にスポンジ
大きさ・広さ
10〜30L程度。大きいほど水質は安定するが餌は見失う
配置・レイアウト
- ポンプ・給水口は底近くに置きスポンジで覆う
- 餌生物を中央に置き個体がすぐ到達できる配置
- 水流は壁沿いに弱く回す。直撃する流れを作らない
設置場所の注意
- 直射日光と暖房の風を避け、水温が安定する場所
- 夏は冷却ファンかクーラーを設置できる場所に置く
運動・部屋んぽ・散歩
- 散歩は不要。移動は餌の上に自分で這わせる
- 水槽外に出さない。観察は水槽越しに行う
- 蓋の隙間から這い出して落下する例があるので毎日点検
温湿度管理
適温採集地と同じ。温帯種は15〜22℃目安、熱帯種は24〜26℃
適湿度湿度は不問。水面の蒸発分は真水で少量ずつ補う
夏・冬の対策
- 夏:冷却ファン・クーラーで水温上昇を防ぐ。停電に備え保冷剤
- 冬:温帯種はヒーター不要な場合が多い。急な温度変化を避ける
グルーミングと外敵からの保護
爪切り
爪はない。代わりに毎日の比重・水温・アンモニア測定と記録を日課にする
ブラッシング・皮膚被毛ケア
体表に触れるケアは厳禁。糞と粘液をスポイトで取り、餌の残骸や腐敗部を除去する
その他のケア
器具は真水で洗い洗剤は使わない。卵塊を産んだら取り除かず観察する
外敵からの保護
- カニ・ヤドカリ・ベラ類など捕食者を同居させない
- ネコや幼児が水槽に手を入れないよう蓋を固定
- 蚊や虫の侵入防止に蓋をし、殺虫剤は部屋で使わない
飼養上の注意(事故防止)
異物誤飲
幼児やペットがウミウシを口にすると毒や刺胞で危険。水槽は手の届かない位置に。誤食時は口をすすぎ医療機関へ
踏みつけ
磯採集で足元のウミウシを踏まない。水槽外に落ちた個体を踏まないよう床を確認してから歩く
挟まれ
ヒーターや岩とガラスの隙間、蓋の縁に挟まれて裂ける。岩は固定し、隙間を作らない
落下・転落
ガラス面を登り水面を越えて落下する。水位は縁から5cm以上下げ、蓋は隙間なく。落ちたら海水で濡らした容器で回収
逸走・脱走
オーバーフロー管やフィルターへ流出する。水面近くの開口部はすべてスポンジで覆い、毎朝個体数を数える
噛みついた時の安全な引き離し方
やってはいけないこと
- 素手でつまむ・引きはがす(体が裂け、毒や刺胞で手も危険)
- 網や指で岩から無理に剥がす
安全な引き離しの手順
- 手袋をつけ、海水を入れた容器を個体のそばへ沈める
- 薄いプラ板やカードを個体の進行方向に置き自分で乗らせる
- 空気に触れさせず容器ごと水中で持ち上げる
- 触れた手は目や口に触れず石けんで洗う
引き離した後の処置
刺されたら海水で洗い冷やす。腫れ・しびれ・じんましんが広がれば皮膚科へ
救命救急マニュアル
今すぐ夜間救急へ(命に関わる)
- 体が溶け始めている・粘液の糸を引く
- ポンプに吸われ体が裂けた
- 比重や水温が大きく狂っている
- 急に全個体が壁から落ちて漂う
当日中に受診
- 触角と鰓が1日中引っ込んだまま
- 体が明らかに縮んでいる
- 餌生物が傷み水が臭う
受診時に伝えること・持ち物
無脊椎を診る病院は少ない。種名の写真・採集地・水温・比重・餌・経過日数を記録し相談
意識・呼吸・心拍の確認
- 触角と鰓が開き、刺激で縮むなら生存
- 正常なら壁面や餌に張り付いて動く
- 溶け・異臭・体の崩れは死亡か瀕死
蘇生の手順
- 心肺蘇生は不可。水質・比重・水温の即時確認
- 同温同比重の新しい海水で1/3換水し流れを弱める
- エアレーションで酸素を確保し照明を落とす
- 餌生物のそばへ置き、翌日まで触らず観察
止血
- 血液はない。裂傷は触らず静置する
- 清浄な海水の別容器へ移し流れをなくす
- 溶け出したら本水槽から隔離する
搬送方法
- 海水で満たした密閉容器で空気に触れさせない
- 保冷剤で採集地の水温を保ち、暗く揺らさず運ぶ
ケースメソッドで学ぶ
